2015年9月1日火曜日

第11話 手の届かない人(前編)



第11話 手の届かない人(前編)




季節は冬。
よく晴れた休日、私は枯葉の下のてんとう虫のように、冬子守をしていた。
すると突然ドアが開き、パパが顔をのぞかせる。

パパ「まだベッドでゴロゴロしていたのか」

「パパ、開ける前にノックしてよ」

パパ「どうした?最近ずっと元気ないようだけど」

「…大丈夫」

パパ「ならいいが…」
  「週末なのに友達と出かけたりしないのか?」

「前は毎週末出かけるの嫌がってたくせに」

パパ「それもそうか…」

「気が向いたら出かけるから…心配しないで」

パパ「…ああ」

パパは名残惜しげにドアを閉める。
私はあの夜以来、何か心にぽっかり穴が開いたような虚しさを感じていた。

(とりあえず起きようかな…)

体を起こし、目に入ってきたのは棚に並ぶスクラップブック。
途端にマークの顔が思い浮かぶ。


マーク「⚪︎⚪︎さんは、本当にファッションが好きなんです」
   「学校の休み時間や放課後、時間を見つけてはファッション誌の記事をスクラップして集めてたり…」


マーク「レオンは本当にいい奴だから、絶対⚪︎⚪︎を大事にしてくれるよ」
   「2人がずっとうまくいくように、応援する」


マークの言葉に一喜一憂していた自分を思い知らされる。

(こうやって、どこかで勘違いをして傷ついてしまう女の子が)
(マークの周りにはいっぱいいるんだろうな)

そんなことをボンヤリと考えていると、携帯が鳴る。
ブレアと3人でサンデーランチをしようと言うセリーナ。

(こういう時は、女友達と遊ぶのが一番だよね)

おかげでようやく外出する気分になれた私は、出かける支度を始めた。




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お店に着くと、席に着いた2人が手を挙げる。

「ハイ!」

セリーナ「おなかすいてる?」
    「私たちペコペコ」

私が頷くと、ブレアは店員にメニューを返す。

ブレア「じゃあ、スペシャルブランチコース、3つ」

店員「かしこまりました」

ボリュームたっぷりのブランチを食べながら、セリーナとブレアは話題が尽きない様子。

セリーナ「そうそう、聞いて?ダンの短編小説がニューヨーカーのコンテストで入賞したの」

「へえ、すごいじゃない!」

セリーナ「ダンったら喜んじゃってイヤになっちゃう」

「そりゃ喜ぶでしょ」

セリーナ「だってその小説をダンに内緒で応募したの、前に言ってたダンの親友の女の子だよ?」

「…そういうことね」

ブレア「ヴァネッサに取られないように気をつけて」

「ヴァネッサっていうんだ、その子」

ブレア「油断ならない上に、かなりの美人」

「へえ…」

セリーナは眉を寄せてため息をつく。

セリーナ「だから私はクリスマスプレゼントで挽回しようと思ってるんだ」

ブレア「そういえば、⚪︎⚪︎はクリスマスどう過ごすの?」

(もしかして、ブレア主催のパーティに誘われたりするのかな?)

「特に、予定はないけど」

ブレア「やだ、可哀想!」

(…え)

ブレア「クリスマスに暇な人なんていたの?」
   「セント・ニコラウスのお手伝いでもしてあげなさいよ!」

「誰、それ」

ブレア「サンタクロースよ」

「…そうなんだ」

ブレア「私はもうクリスマスの準備で大忙し」
   「感謝祭の日はいろいろあって結局パパは帰って来れなかったけれど」
   「クリスマスには必ず帰るって約束してくれたの」

「そっか。よかったね」

2人はしゃべりながらも綺麗にブランチを食べ終え、
そっとナプキンで口元を拭くと、チップの用意を始める。

ブレア「これからママとクリスマス・イブのパーティーの準備なの」

セリーナ「私はダンへのプレゼント探し」

(2人とも忙しそうだな…)

せっかく街へ出てきたので、私はのんびり散歩でもしようと思いつく。




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私は図書館で借りたファッション誌の本を手に、
セントラルパークへやってきた。
芝生へ腰を下ろし、ページをめくる。
50年代のファッションのページを読んで、思わずため息が漏れる。

「私と同じ17歳で…すごいな」

イヴ・サンローランが17歳でデザインコンテスト1位に入賞し、
クリスチャン・ディオールの下で働き始めたとある。

(私も、ちゃんと夢叶えられるかな…)

感心しながら、芝生の上に体を横たえる。
仰向けで抜けるような青空を見上げていると、ふと、あの日の光景が脳裏に蘇った。


マーク「ここから見る空って、広くて青くて…抱えてる悩みも不安も吹っ飛ぶんだ」
   「だから、また何か悩んだりしたら、ここに来よ」


(マークはそう言ってたけど…今はこうしているとマークのことばかり思い出してしまう)

後ろ向きな感情を振り払うように、私は体を起こす。
すると、肩のところに芝生の草がみっしりとついていた。
それを手で払い落としながら、どういうわけか、涙が溢れてくる。

(あれ…なんでだろ…)

頭の後ろに芝生がつかないように、腕枕をしてくれたマークの腕の感触は、
今でもしっかりと残っていた。

(…ダメだ私…マークのこと、好きになっちゃってる)

マークがくれた優しい言葉や、さりげない気遣いの一つ一つが、
私の心はしっかりと沈み込んでいた。
あの日の夜の散歩で繋いだ手のぬくもりも、しっかりとこの手に残っている。

「やばい…止まらないや」

涙がとめどなく溢れ続ける。
するとその時、携帯が鳴る。
画面を見ると、レオン、との表示。
不思議に思いながら、電話に出た。

「ハイ…レオン。どうしたの?」

少し間があったのち、レオンは小さく言う。

レオン「…泣いてるのか?」

「え…ううん。泣いてないよ」

私は慌てて涙をぬぐった。

レオン「そうか…。何してる」

「のんびり読書中だよ。こういう休日の過ごし方もアリだよね」

レオン「…」

「レオンは何してた?」

レオン「…何も」

それだけ言って、電話は切れた。

(レオン…何か言いたいことあったんじゃないのかな…)

解せないまま、私は再び本を開く。
虚ろな心地で、何となくページをめくっていると、近くで誰かの足が止まった。

(…え?)

それはレオンだった。
少し息を切らせている様子だ。

「レオン…どうしてここが…」

レオン「…マンハッタンのことなら、なんとなくわかる」

そういうとレオンは横に腰をおろす。
私の顔をチラッと見て、小さく息をついた。

レオン「ウソつき…眼、真っ赤じゃん」

「…ごめん。ちょっといろいろあって」

レオン「マークのこと?」

「え、違う…けど」

レオン「もう…ウソつかなくていいから」

私の眼をじっと見つめるレオン。

レオン「…」

私は観念し、コクリと頷いた。
レオンはフッと笑う。

レオン「フラれたの、初めて」

そういうと、静かに立ち上がり、ポケットに両手を入れて私を見下ろす。

レオン「…行こう」

「え…?」

レオン「ついてきて…」

それだけ言うと、レオンはどこかへ向かって歩き出した。
私は訳もわからぬまま、慌ててその後を追いかける。




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しばらく歩いたところで、レオンは足を止める。
そこは、マンハッタンきっての大病院の前。

(病院に連れてきたってことかな?)

「レオン…ここに誰か入院してるの?」

するとレオンは振り返り、小さく微笑んで首を振る。

レオン「…あ、でも…ある人が入院してた」
   「とても素敵な人だったよ」

「え?」

レオン「ここ、俺の親がやってる病院なんだ」

「え…!」

私はあんぐりと口を開けたまま固まってしまう。

レオン「ちなみに…この隣が、俺んち」





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レオンの実家は経営する大病院と並んで建ち、その豪華な門構えはいずれ劣らぬ佇まい。

(お家に…連れてきてくれたってこと…?)

家を前にためらう私を、レオンは不思議そうに振り返る。

レオン「…どうした?」

「いや…あの…」

するとレオンはクスッと笑った。

レオン「大丈夫。さすがにフラれてどうにかしようなんて思わないから」

そういって、私を中へ促す。



To Be Continued…….


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