2015年9月1日火曜日

第11話 手の届かない人(後編)

第11話 手の届かない人(後編)



レオンの部屋へ通されると、程なくしてメイドさんらしき人がハーブティーを持ってきてくれる。

「ありがとうございます」

メイド「どうぞ、ごゆっくり」

先ほど玄関で出迎えたメイドさんに、レオンが何か耳打ちしていた。

(このハーブティーのことかな…?)

「いただきます」

淡く透き通ったピンク色のハーブティーは、香り高く、一口飲むと爽やかな味わい。

「…おいしい」

レオン「ローズヒップとペパーミント、イチゴの葉にマロウ、マリーゴールドも入ってる」

「すごい。詳しいんだね」

レオン「落ち込んだ時は、これがいい」

「…」

(だから、私にこのハーブティーを飲ませようとして…)

「ありがとう…」

レオンは何も言わず、小さく微笑む。

「病院の息子だから、ハーブにも詳しいの?」

レオン「いや…こんなのは民間療法だけど」
   「ハーブティーを好きになったきっかけは」
   「マークのお母さんなんだ」

「え…あの、元女優の…」

レオン「ああ…」

レオンは、窓の外に見える病院に目をやる。

レオン「マークと最初に出会ったのは、うちの病院だった。6歳のとき」

そういって立ち上がると窓際に立ち、病院を見下ろす。

レオン「俺は医者の家系に生まれたというのに、病院の雰囲気がなんだか怖くて…嫌いだった」
   「父親がそんな跡取りの危惧してあえて慣れさせようと病院の廊下を毎日歩かせたんだ」
   「それが嫌で嫌で、泣き出した俺の前に現れたのが、母親と手をつないだマークだった」

「マークのお母さんは、ここの病院に…?」

レオンは静かに頷く。

レオン「マークは泣いている俺に近寄ってきて、こう言った」
   「『泣いちゃダメ。笑ってた方が幸せになるらしーよ』ってね」

(…マークらしいな)

レオン「それがきっかけでマークと仲良くなって」
   「マークのお母さんの病室にもお邪魔するようになったんだ」
   「その時…ハーブティーを初めて知った」

「マークとは本当に古い友達なんだね」

レオン「でも…それから1年ほどしてマークのお母さんが亡くなって…マークと会うこともなくなった」
   「再開したのはミドルスクールのとき」
   「俺は、この頃からこんなだから、誰も近寄ってこなくて一人でいたけど…」
   「マークだけはあの調子で話しかけてきたよ」

するとレオンはふと書棚の方へ向かい、当時の写真を手に戻ってくる。

レオン「これが、バスケットのスポーツクラブに入ってた時の写真」

そこにはミドルスクール時代のレオンとマークが笑顔で並んで写っている。

「あ…前に言ってたな。レオンと1 on 1したって」

レオンはその時の戦利品、ノーマ・ジーンのオートグラフに目をやる。

レオン「あれね」

「スポーツはレオンの方が得意だった?」

レオン「ううん、マークも得意だったけど、やっぱり美術とか芸術のセンスがずば抜けてた」
   「一瞬で光景を目に焼き付けて、しばらく経ってから紙にスラスラ書き始めたりする」
   「映画を観るとすぐに好きなシーンの絵コンテを起こしてみたりとか…」
   「あんな奴他にいなかったからビックリした」

「それって生まれ持った才能だよね。やっぱり、マークってスゴイな…」

言ってから、ふとレオンの視線に気づく。

「あ…」

レオンは小さく笑みをこぼす。

レオン「いや、あいつは本当にスゴイよ」
   「お母さんが亡くなった時も、慰めようとする俺に必死に笑顔を向けてた」
   「涙をこらえながら。大丈夫だって言って」

「そんな小さい時に、やせガマンしなくていいのに」

すると、レオンはゆっくりと首を振る。

レオン「後でマークのお父さんから聞いて知ったんだけど…マーク」
   「俺がこの病院の子だから、俺のこと傷つけないように、涙を見せまいといしてたらしい」

「え…」

レオン「亡くなったのが病院のせいだと俺が思ったりすることのないように…」
   「7歳の子が、母親を亡くした時まで友達のことを気遣って、つらくなんかないってフリ、してたんだ」

レオンの声には、いつになく熱がこもっていた。

レオン「あいつは本当に強くて、本当の優しさを知ってる…」
   「だから、あいつに負けても仕方ない」

そういうと、レオンは仕方なく笑った。





___________________________





その夜、久しぶりに現れたマークに、クラブの客たちは歓喜していた。

男性「待ってたよ、マーク!」

男性「宇宙旅行、楽しかったか?なーんて」

女性「マーク、久しぶりになんだから一緒に飲もうよ」

すると、アイザックが女性に掌を向ける。

アイザック「あいにくだが俺たちがキューの先頭だ」

そういうと、アレックスとともにマークをVIPルームへ連れて行く。
腰を下ろすと、マークはソファに体を預け、ボーッと宙を見つめている。

アイザック「腰抜けになったもんだ」

マーク「…え?」

アイザック「最近のお前はつまんねぇ」

アレックス「右に同じ…だな」

マーク「…」

アイザック「つまんねーっつーか、お前らしくないっていうか…それが本当のお前だったのか?」

マークは運ばれてきたカクテルに少しだけ口をつけ、すぐにテーブルに置いた。

アレックス「女みたいな飲み方しやがって」

マーク「…それより、話って?」

アレックス「呼び出したのは、俺たちが話したいことがあるからじゃない」
     「マークの話を聞いてやろうと思っただけだ」

マーク「なるほどね」

マークは小さく息をついた。
少しためらうようにして、ようやく口を開く。

マーク「好きな子に…これ以上近づけなくなった」

アレックス「…は?」

マークは少し首をひねる。

マーク「いや、違うな…好きとかじゃない」
   「ただ、その子のことを思うと、胸のあたりがなんか落ち着かなくなって…」
   「その子のためならなんだってできるっていう強い気持ちが湧いてきて…」
   「どうしてもその子に幸せになって欲しいって…そう思ってるだけだから」

アイザックとアレックスは呆れ顔でマークを見つめる。

アイザック「…たまげた。好きどころの騒ぎじゃないな」

アレックス「あのマークが女に本気になるなんて…」

クラブの喧嘩はもはや3人の耳には届いていなかった。

マーク「…好きなんだよね、これって」

アイザック「間違いなく100人中100人がそう言うだろう」

アレックス「マーク…それってもしかして…⚪︎⚪︎?」

マークはハッとしたようにアレックスを見ると、
小さく頷く。

アレックス「やっぱりな」

アイザック「近づけなくなったていうのは?」
     「そんな近づきがたい女じゃあるまいし」

マーク「のんびりしてたら先越されて」

アレックス「⚪︎⚪︎に男ができたのか?」

マーク「…はっきりとはわからないけど、たぶん、そうなるんじゃないかな。お似合いだし…俺も異論は…」

アイザック「やっと惚れた女なんだろ?」

マーク「…」

アイザックが珍しく熱くなていることに、マークは驚く。

アイザック「いや、なんつーか…そういうお前初めて見たと思って…ま、どうでもいいけど」

そういって不機嫌そうにテキーラを飲む。

アレックス「たしかに。こんなアーク見たことないし、あきらめていいのか?って気がしないでもないけど…」
     「ま、俺もどうでもいい」

マーク「…」

眉を寄せ、考え込むマーク。
アイザックが2杯目のテキーラを頼もうとボーイに手を挙げたその時、マークはすっと立ち上がった。

マーク「俺…帰るわ」

アイザック「ああ」

マークの背中に、アイザックはボソッと声をかける。

アイザック「まあ…がんばれよ」

マークは振り返り、二人に微笑みかける。

マーク「…うん!」

VIPルームを出て、出口までもう少しというところで、美女がマークの腕を掴んだ。

美女「今日は逃さないわよ?もう、ずーっと待ってたんだから。踊りましょ、マーク」

マーク「ごめん、他のイケメンと楽しんで」

美女「うそ…ほんとにマーク?」

マーク「見ての通り」

そういって笑みを浮かべ、マークは足早に去っていった。




____________________________





その夜、私は眠れそうにない中、早々にベッドへもぐりこんだ。
マークのことを、レオンは敵わないと言っていた。

(…私だって、マークには敵わない)
(マークは…私には手が届かない人なんだよね)

あの日の夜、あっさり『応援する』と言われたことで、皮肉にも私は自分の気持ちに気付いたけれど、
気づくのがあまりにも遅かった。

(もう…寝よう)

そう思い瞼を閉じたその時、携帯が鳴る。
携帯を手に取り、画面に表示された名前に、胸が高鳴った。

「…マーク?」

平静を装おうとして、思った以上に不機嫌そうな声になってしまう。

マーク「⚪︎⚪︎…ごめん、こんな遅くに」

「ううん…大丈夫」

マーク「今度の休み、映画のプレミアムがあるんだ」
   「どうしても⚪︎⚪︎と行きたいと思って…」

「映画のプレミアムって…」
「もしかしてあの、テレビとかでよく見るレッドカーペットのこと…?」

マーク「ああ。父さんの会社が配給の映画で、俺もプレミアムに呼ばれてるんだ」
   「一緒に…来てくれない?」

私は頭が真っ白になる。
目に浮かぶ光景は、世界的スターがカメラのフラッシュを浴び、
詰めかけたファンの歓声を受けながら女性をエスコートして歩く姿。

(…そんなの有り得ない。どうして私…?)
(レオンとの恋を応援するって言ってたのに…)

マーク「…⚪︎⚪︎?」

返事が返ってこないためか、マークは不安そうに私の名前を呼んだ。

(…私じゃない誰かでも、いいんだよね…きっと)

「ごめん、その日は予定があって」

マーク「予定って…?」

(え…)

「…夕食を」

マーク「え?」

「夕食を作らないと…いけないから」

マーク「じゃあ、俺からお父さんにお願いにあがる。⚪︎⚪︎を連れて行かせて欲しいって…」

「そ、そんな…いいよ」

マーク「でも俺…どうしても⚪︎⚪︎に一緒に来てもらいたいから…」

マークの真剣な声に、私はこう答えるよりほかなかった。

「…わかった」

マーク「ありがとう…」

マークは心からホッとしたようにそう言った。




To Be Continued……..


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