2015年9月1日火曜日

エピローグ パリでの贈り物(後編)

エピローグ パリでの贈り物(後編)



「素敵な人だね」

マーク「とんだ秘密をバラされちゃったけど…」

リムジンの中、マークは少し恥ずかしそうにしていた。

(留学先でも私の話をしてくれたなんて、嬉しいな)



次に私たちがやってきたのは凱旋門。
せっかくだからと272段のらせん階段をのぼり、上からの景色を楽しむことにした。
息を切らせて、2人、ようやくテラスに到着。

「わあー、パリがよく見渡せる!」

マーク「エッフェル塔みたいに高いところもいいけど」
   「これくらいの高さの方がパリの真ん中にいるって実感できるでしょ?」

「うん…いい眺め」

凱旋門から放射線状に伸びる幾つもの通りを見下ろし、
頰にそよぐ風を受けながらパリを全身に感じる。

(マークと2人でパリにいるなんて…)
(なんだか、嬉しくて自然と頬っぺたが緩むな)

そんなことを思っていると、隣のマークが私のほっぺをつつく。

「私ににやけてる?」

マーク「うん、にやけ顏も可愛い」

そういってマークは、私の頰をそっと包み込む。

マーク「他にも見せたいところがあるんだよね」

「もっとにやけても、いい?」

マーク「いいよ」
   「少し遠いけど、大丈夫?」

「うん!」

私たちはパリの近景を堪能したあと、またリムジンへ乗り込んだ。




リムジンの中では、マークの留学してた頃の話や、セリーナやブレアの話など、
いくらでも湧き出す泉のように2人の会話は途切れることがない。
ところがしばらくして、私は少し体調が優れないことに気づく。

(…車酔い、したかも)

なんとなく気持ちが悪くなってきたけれど、気にしないようにしていた。

マーク「そういえば、パリに留学し始めた頃、ずっと勘違いしてた言葉があってね」

「うん…」

マーク「雨が降ってるはイルプル、彼は泣いているがイルプルールなんだけど、俺、逆に覚えてて」

「へえ…」

マーク「イルプルって言われるたびに『泣いてないし!』とか返してたわけ…」
   「ん?⚪︎⚪︎?」

マークが私を覗き込むようにしてみる。

マーク「どうした?気分悪い?」

「ちょっとだけ、車酔いかも」

マーク「それはマズイな」

「大丈夫だよ、すぐに治る」

マーク「ダメ。顔がどんどん青くなってきた。近くで降りよう」

「…ごめん」




リムジンを降り、外の風に当たる。

マーク「少しだけ深呼吸してみよっか」

「うん…」

澄んだ空気を深く吸い込み、大きく吐き出す。
ほんの少し気分がよくなったけれど、まだ胸のあたりが気持ち悪く、頭も重い。

マーク「ちょっとだけ、歩こう」

マークに手を引かれ、歩き出す。
すると、目の前に海が見えてきた。

「わあ、海だ…」

マーク「フランスの西海岸だよ」

「そんなにリムジンで走ったんだー」

マーク「時差もあるし、これだけリムジンに乗ったら具合も悪くなっちゃうよね。ごめん」

「ううん、海が見られると思ってなかったから、嬉しいよ」

私がそういって笑うと、マークは眉を寄せて微笑む。
2人海辺のベンチにたどり着いた。

マーク「ここで休もうか」

「うん」

するとマークはポケットからハンカチを取り出し、そっとベンチに敷く。

マーク「どーぞ」

「ありがと…」

静かに腰を下ろす。

「前にもこうしてくれたよね。セントラルパークで」

マーク「こうするって…?」

「ハンカチ、敷いてくれた」

マーク「ああ、ハンカチのことか」

マークはこともなげにそう答える。

「日本じゃこういうレディファーストな文化、あんまりないから…」

マーク「そうなの?」
   「大切な彼女のためだから当たり前だよ」

そういって私の頭をそっと抱き寄せ、肩にもたれさせてくれる。

「寄りかかってると…だいぶラク」

マーク「好きなだけ使っていいよ、俺の肩」

海からの風を受けながら、私はマークに身を委ねてボーッと景色を眺める。
マークは時々私の髪を撫でながら、静かに様子を見守っていてくれた。
しばらくして、胸のつかえがとれていることに気づく。

「…もう、大丈夫かも」

マーク「そう、よかった」

リムジンに戻り、ドアを開いて私を乗せると、マークはニコッと微笑む。

マーク「すぐ戻ってくるから、ちょっと待ってて」

「…うん?」

不思議に思いながらリムジンでのんびりしていると、程なくしてマークは戻ってきた。

「何してたの?」

マーク「秘密!」

「あやしいなー。フランスの女の子ナンパしてきた?」

マーク「あ、ばれた?」
   「さっきのマーケットにいたアイス売り場の子が超可愛くて」

海辺からリムジンへ戻る途中、いろんな店が集まるマーケットを通ってきた。

(手前にアイス屋さんがあったのは覚えてるけど…)

「あれ、お婆さんじゃなかったっけ?」

マーク「美熟女だよ?」

「ふふ…もう。油断も隙もないよね、マークって」

軽口を叩けるくらいにまで私は回復していて、マークと他愛のない話をしているうち、
リムジンの外は日が落ち始める。

マーク「あ…もうすぐだな」

窓の外を見ながらマークはそう言った。
やがて、窓に映る景色に、私は目を見張る。

(これって…)




リムジンから降り、目の前に広がる絶景に私は息を漏らした。

「すごい…」

それは、ライトアップされたモン・サン=ミッシェル。
夜の海に浮かび上がる幻想的な城。

マーク「ここの夜景を⚪︎⚪︎にどうしても見せたかったんだ」

「なんだか、現実の世界じゃないみたい。ホントに綺麗…」

神々しいその光景に圧倒されていると、マークが私の目を覗き込む。

マーク「少し目をつむって」

「え…?」

マーク「3つ数える間だけ」

「わかった」

言われた通り目を閉じて3つ数えようとすると、甘いオレンジの香りがふわっと漂ってきた。
私は目を閉じたまま、思わずこぼす。

「なんだかいい香り…」

と、次の瞬間、唇に優しいキスの感触。
ビックリして目を開けると、マークはニにっこり微笑んで華麗な花冠を私の頭に乗せる。

「どうしたの…これ」

マーク「神様がくれた」

「また、そんなこと…」

マーク「オレンジの花でできているんだ」

「それでいい香りがしたんだね」

マーク「オレンジの花言葉は『純粋』。⚪︎⚪︎にピッタリだと思って…」

その言葉が照れ臭くて、私は少し俯いた。

マーク「ちなみにヨーロッパの花嫁は、婚約してからずっとオレンジの花を男性からもらう風習がったんだって」

「へえ…」

マーク「オレンジには、花嫁を守って幸せに導く力があるって言い伝えが、ヨーロッパでは古くからあるらしい」

「じゃあ、こんな素敵な花冠もらったら、花嫁みたいだね」

マーク「もちろん、俺の未来の花嫁だもん」

「え…」

顔が一気に赤らんだ。

モン・サン・ミッシェルの明かりに照らされ、二人は見つめ合い、やがて唇を重ねる。
それは、オレンジの香りのするとても甘いキス。

マーク「…ずっと前から、⚪︎⚪︎が好きだった気がする」

「大げさ。出会ったのは学校に入ってからだよ」

マーク「そっか…」

マークはフッと笑みを漏らし、私の髪をそっと撫でる。

マーク「でも、⚪︎⚪︎のこと大好きだから…これからもずっと…」

再び二人の唇が重なり、大人のキスになった。
胸のドキドキがどんどん高まる。
私はマークにしがみつくようにして、その熱いキスを受け止めていた。



パリの楽しい休日も終わりを迎え、二人、シャルル・ド・ゴール空港へ到着。
私の荷物を持ち上げ、チェックイン手続きをしてくれるマーク。
パパに約束した通り、私たちは全ての朝を別々の部屋で迎えた。



パリからの帰りの飛行機の中。
俺は、隣で爆睡する⚪︎⚪︎を見つめながら、あの日のことを思い出していた。

(あの時と…おんなじだ)



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ちょうど1年前。
成田からJFKへ向かう飛行機の中、俺たちは最初の出会いをした。
⚪︎⚪︎はきっと、覚えてないだろうけど。
隣に誰が座っているかなど気にする様子もなく、⚪︎⚪︎は夢中で手紙を書いていた。

(…お母さんへ、か)

少しくらいなら日本語が読める。
いま発ったばかりの日本に残した母親へ手紙を書いているのだろう。
何度も書いては消し、消し方が悪くて便箋にしわが入っては、また一から書き直す。

(親思いの優しい子だな…)

「…よし」

書き終えたのだろうか、満足そうに読み返している。
そして、書き終えた手紙をカバンにしまい込み、しばらくすると熟睡していた。




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(いま思えば…あの時から、好きになりそうな気がしてた…)

俺は寝ている⚪︎⚪︎の頭を自分の肩に乗せ、額に軽くキスをした。








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